パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 ◇

 結局私は、あのとき心から笑えなかった。
 『綺麗なお別れ』をしたいだけだった。

 大輝には頑張らなくて良いとか、泣いていいとか言ったくせに。

 大輝も泣いたのかな、私みたいに。
 笑って別れようなんて、申し訳なかった。
 泣けば良かった。
 なのに、私は無理矢理に笑った。

 大輝も、無理やり笑っていたのかもしれない。
 けれど、別れ際の大輝の笑顔は、とびきり明るいお日さまのようだった。

 心がめちゃくちゃになるくらいに落ち込んで、気付いた。

 大輝は私より、ずっとずっと大人な人だったんだ。

 大輝の気持ちを一緒に持ってあげたいだなんて、おこがましいにもほどがあった。
 大人ぶって、大輝みたいになったつもりで、彼を照らしているつもりになっていただけだった。

 今思えば、あの頃はそういう「してあげられる自分」に酔っていただけなのかもしれない。
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