パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 大輝はあの日から変わらず、お日さまみたいな笑顔で、職務を全うする格好いい消防士さんになっていた。

 私はあの時から、何か成長したのだろうか。

 自分のことで精一杯で、周りに気を遣う余裕もない、そのうえ自立もできないダメな人間。
 人としてもダメ、女としての魅力もない。

 何もできない私は、あの頃から変わってない。
 むしろ、自分のこともちゃんとできない、未熟な大人に劣化してしまった。

 車が家に着く。
 ため息を飲み込んで、エンジンを止める。
 それから、後部座席でまだ寝息を立てる息子を抱き上げた。

 今はとにかく、自立したい。
 大輝は、今も私のお日さまで、私の『憧れ』だ。

 だから、私も大輝みたいになれるように。
 そこまではおこがましいかもしれないけれど、せめて人様に迷惑をかけないように。
 仕事を頑張って、お金貯めて、息子を連れて実家を出て、一人でも生きていけるように。

 今はただ、頑張ろう。
 誰にも頼らずに、一人で生きていけるように。
 だから、それまでは――。

 家に入り、息子を布団にそっと寝かせる。
 それから、鞄に入れていた大輝の名刺を取り出して破ると、そっとゴミ箱に放った。
 私自身の、けじめとして。
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