パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「お父さん? お父さん!?」

 呼びかけても反応はない。

 消防署の見学会の時に訊いた、救命の話が脳をよぎる。

『身体が発する、危険なサインは色々あるんです。例えば、いびき』
『寝ているんだと思って、発見が遅れるケースも少なくないので――』

 手が震え、頭が真っ白になった。

 でも、もし本当に寝ているだけだったら?
 どうしよう、どうしたら――

 とにかく母に伝えなければと、階段を駆け上る。

「お母さん、お父さんが――!」

 思ったよりも大声が出て、母はのそのそと起き上がる。

「ちょっと来て!」

 部屋に颯麻を残し、母と二人で階段を駆け下りる。

 けれど、父の姿を見て、母の顔が青くなる。それで、確信した。

 いつもと違う。絶対に。

 私はポケットからスマホを取り出して、慌てて119番を押した。
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