パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 やがて救急車のサイレンは止み、夜の病院の前に停まる。
 後部ドアが開いて、父は処置を施す大輝とともに、病院の中へと運び込まれていった。

 私は母と救急車を降り、他の救急隊員に言われ待合室のようなところにやってきた。ここで、次の案内を待つようにということだ。
 長椅子に、母と共に並んで座る。

 病院に父を運べた安心感。
 大輝が父についている安心感。

 それだけで、私の気持ちはいくらか軽くなる。

 けれど、母はまだ絶望の顔をしていた。

「お母さん……」

 そっと声を掛け、小さくなった母の肩に手を乗せた。

「ダメね、私がしっかりしなきゃいけないのに……」

 母は自分を奮い立たせるように、無理やりに笑った。
 そんな母に、私はかける言葉が見つからない。
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