パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 ああ、私はやっぱり大輝とは違う。
 あの頃みたいに、母を抱きしめることもできない。
 大輝なら、こういう時にどういう言葉をかけるのだろう。
 母に、何をしてあげられるのだろう。

 自分の未熟さを思い知るような、長い沈黙。
 手を乗せた母の肩が、小さく震えている。

 やがて救急隊員が戻ってきた。
 大輝だ。

「医者から呼ばれるので、ここでもう少しお待ちください」

「うん……」

 私たちに寄り添うように、しゃがんでそう伝えてくれた。
 それだけで、大輝は私たちに安心感をくれるのに。

 大輝は立ち上がる。

「おじさん、きっと大丈夫だ」

 そう言いながら、私の頭に大輝の手が触れた。
 やさしくぽんぽんと撫でられ、そのまま去って行く。

 はっとして振り返ると、夜間救急の出入り口からこちらに微笑む大輝がいた。
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