パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「梓桜、毎日ありがとう。だいぶ落ち着いたわ」

「うん」

 3日ほどで父の様態は安定し、ICUから出ることになった。
 前に見た時は脳に管が繋がれていて、その透明な管を通る血液が生々しいと思ったけれど、今はそういうこともない。

 母は個室の病棟を紹介してもらい、父のそばにいたいからと面会時間いっぱい病院にいる毎日を過ごしている。私は息子を連れて、毎日父のお見舞いに来ている。

 母に言われ、「うん」しか返せない自分の小ささに申し訳なさが募る。

「今日ももう帰るでしょう? 颯麻くんのご飯も、寝る時間もあるだろうし」

「うん、そうなんだけど……」

 この数日間で、私は仕事帰りに颯麻をピックアップして病院に立ち寄ってから、颯麻と共に家に帰り、ご飯を温め颯麻に食べさせ、風呂に入れて寝かせて、という毎日をこなしていた。

 それでも、午前中にご飯を仕込んでくれている母。
 私は温めたものを颯麻と食べるだけだ。

 結局、こんな事態になっても母がいないと、ダメな私。母だって、父のことに専念したいはずなのに。
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