元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜

9 理想の相手に近づきたくて

出初式(でぞめしき)……」

 すっかり寒くなった一月の半ば、息子を迎えに行った保育園近くの掲示板に、そんなポスターを見かけた。
 颯麻が「ポンプ車ー!」と、目ざとく見つけたのだ。

 ポスターによると、消防による新春恒例行事である出初式。去年のものだという写真には、竹のはしごに登って演技する梯子隊演に、消防音楽隊の演奏姿も写っている。
 当日はポンプ車の放水などもあるらしく、颯麻のテンションの上がりそうなラインナップである。

「今週の日曜か……」

 せっかくなら、行ってみようかな。
 行ったら、大輝にも会えるかな。
 今の私なら、前よりも少しは胸張って、大輝に会えるかな――。

 写真を良く見たいとせがまれて抱っこした、腕の中の息子に問う。

「ポンプ車、お水ジャーってするんだって。行きたい?」

「行くー! お水ジャー、見るー!」

 嬉しそうに顔をほころばせながら、手で「お水ジャー」を表現する颯麻。

 そんな颯麻を見ていると、きっと消防隊の方々にまた「颯麻くん」って言われちゃうのかな、なんて想像する。
 それから私も「隊長の元カノさん」と呼ばれて――

 頬が急に火照って、慌ててポスターの前から立ち去る。

 颯麻が「まだ見る―! 帰る、ないー!」と腕の中で暴れている。
 けれど、私はそんなことよりも、自分の早くなった鼓動に慌てていた。
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