パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「なあ、そいつ泣き止ませてくんない?」

 旦那に浴びせられた、心無い言葉にはっとする。
 胸の中で必死に泣く、愛しい息子を放ってしまった。
 慌てて腕をゆらゆらと揺らした。

「ごめんね……」

 罪悪感から紡がれた言葉は、涙でぐしゃぐしゃになってうまく発音できない。

 もう、嫌だ。
 何もかも、辞めてしまいたい。

 けれど、産まれたばかりの息子を抱えた私は、無力なこの子を守ってあげなければならない。

『離婚』

 その二文字が脳裏をよぎった。

「悪かった。でもほら、妊婦って女としての魅力を感じないっつーか、抱けねーじゃん」

 旦那は私にそう言って、平然といつもと変わらない毎日を過ごし始めた。

 魅力がない。
 女として、ダメ。
 そんな言葉を投げられ、仕方ないと割り切って。
 まだ何もできない息子を抱えた私は、彼を許すことしかできなかった。

 実家に頼ることも考えた。
 けれど、結婚の時も、息子の誕生報告もテレビ電話の向こうで大喜びしてくれた両親に、私は弱音を吐けなかった。

 里帰りしなかった私を心配した母が、何度も訪ねてきてくれて、その度にご飯を作ったり息子を抱っこしたりしてくれた。
 けれど、そんな母に私は事実を言えなかった。

征耶(まさや)さん、帰り遅いのね。お仕事忙しいの?」

「うん、そうみたい」

「一人で平気? 無理してない?」

「うん、平気! ご飯ありがとうね」

 親に無駄な心配をかけたくなくて、無理やり作った笑顔で追い返した。
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