パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 たった五分が、やたらと長く感じる。

 ストップウォッチとにらめっこする私。
 その秒数表示が進む速度が、とても遅い気がする。
 はやくおさまってくれと、目を閉じたままぴくぴくする息子を見守る。

「颯麻……」

 声を漏らすたびに、両肩に手を置いた母が「大丈夫よ」と言葉をくれる。

「なかなか戻らないわね。うーん……」

 母は私の手の中のスマホをちらりと見る。私もつられて、そちらに視線を向けた。

 四分三十秒。

「梓桜、救急車呼びなさい!」

「え……?」

「いいから! 五分過ぎたら大丈夫じゃないのよ!」

 急に不安が私を襲い、けれど手にしていたスマホで何とか119番を押す。息子の様態と住所を伝えた。

 電話の向こうの声に促され、深呼吸。それから息子の保険証と、着替えを鞄に詰め込んだ。

「大丈夫よ、大丈夫」

 母がずっと付き添ってくれている。
 その言葉に、自然と心が凪いでくる。
 胸の中には、彼がいた。

 ――大丈夫だ。もうすぐ、大輝が来てくれる。
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