パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 やがて聞こえてきたサイレンの音。
 けれど、やってきた救急隊員は大輝ではなかった。

 息子はてきぱきと無駄のない動きで救急車に運び込まれ、酸素マスクをつけられた。

「お母さんも行こうか?」

 言われたけれど、足の悪い父を一人残すのは心配だ。

「大丈夫、お父さんの隣にいてあげて」

 心配そうな顔をする母を振り切って、一人で救急車に乗り込んだ。

 サイレンを鳴らして、救急車が走る。
 けいれんから目を覚まさない息子に、私はただ目覚めてと願うことしかできない。

 不安でいっぱいになる。
 このまま、目が覚めなかったらどうしよう。
 まだ、二年とちょっとしか生きていないのに――。

 押しつぶされそうな胸を何とか維持し、こみ上げてきた気持ちを飲み込む。

 大輝、颯麻は大丈夫だよね?

 こんな時でも、ここにはいない大輝を心の頼りにしてしまう。
 私は、何てバカなんだろう。
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