パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「ごめん、でも、本当に、大丈夫……」

 そう言いながら、袖口で必死に涙を拭う。それでも視界は涙で歪んでいく。
 こんな顔、見られたくない。私は顔を隠したまま、大輝を振り切って夜間出入口を出ようとした。

 なのに。

「待って!」

 ぐいっと、大きな手が、私の腕を引き止めた。

 腕を掴まれれば、動けない。私は夜間出入口の外で足を止めた。こんな顔では、振り返れない。

「救急車だと帰りの足ないだろ、せめて家まで送らせて」

「平気だよ、タクシー捕まえるし――」

「俺の車乗った方が早い」

 震えそうな声でもなんとか平静を装って返答したのに、その声すら遮られた。
 それで私は、何も言えなくなってしまう。

「な、来いよ」

 大輝はそう言って、私の腕を引いて駐車場まで歩いていく。
 私は、うつむいたままついて行く。大輝に、みっともない顔を見られないように。
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