パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 大輝は黒いSUVの助手席の扉を開いて、私に乗るよう促した。私が大人しく乗り込むと、大輝も運転席に回って乗り込んだ。

 扉が閉まると車内のルームランプが消える。

 その頃には私の涙も収まっていた。けれど、きっとひどい顔をしている。
 夜の車内の暗さに、顔を見られなくて良かったとほっとした。

「消防士さんでも、残業とかあるんだね」

 なんとなく沈黙が気まずくて、そんなことを口走った。

「あー、まあな。俺の燃費が悪いだけ」

 大輝はステアリングを握りながら言う。
 けれど、大輝のことだ。きっと、他の任務や仕事を手伝って遅くなったのだろう。

「おじさん、元気?」

「うん。足が少し動きにくいけど、杖突いて歩けるくらい元気」

「そっか、良かった……」

 大輝はほっと息をつき、車のエンジンを入れる。夜の駐車場を、そっと車が動き出した。

「心配してた。梓桜、『頼れ』って言ったのに全然連絡よこさねーし」

 大輝の運転する車が一度止まる。
 駐車場のバーが上がって、車は夜の道へと走り出した。
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