パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「ごめん。連絡先、捨てちゃって」

「そう……」

 言いながら、大輝は車を停めた。
 今夜の国道は車が多く、渋滞しているのだ。

 ちらりと横を向けば、背の高い大輝はステアリングに顎を乗せ、背を丸めている。それが落ち込んでいるように見えて、私は慌てて口を開いた。

「人生でこんなに短期間に何度も救急車に乗るなんて思わなかった」

 えへへと笑い交じりに伝えた。きっと大輝は正面を見ていて、目の真っ赤な私の方なんて見ないだろうと思ったから。
 それに、今なら赤い目も、前の車のブレーキランプだと言える。

「俺は何度も乗ってるけどな、仕事で。っつっても、まだ救命士としてはぺーぺーですが」

 大輝も口角を上げて、まるでお道化るようにそう言った。

 きっと大輝は、わざと笑わせてくれている。
 私のために。

 連絡先を捨ててしまったこんな私にも、優しくしてくれる。それが、大輝らしくて、とてもまぶしい。

「ありがとう。大輝はすごいね、人のために動けるんだから。それに比べて、私は――」

 一人じゃ何もできない、ちっぽけな人間。
 大輝が太陽なら、私はその光を浴びて生きることしかできない、小さな雑草だ。

 だめだなあ、と、小さくため息をついた。
 すると、ステアリングを握っていた大輝の手が、私の方に伸びてくる。そのままその手は、私の頭に軽く触れた。ぽんぽん、と、子供をあやすように。

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