パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「頑張りすぎんなよ」

 正面を見たまま、大輝はそう言うとステアリングに手を戻した。その背は、もう丸まってはいない。

「大輝さ、何でそんなに心配してくれるの?」

 他人なのに。
 ただの元カノなのに。
 私は、大輝に心配される資格もないような、ダメな人間なのに。

「頑張ってる人を支えたいから。市民を守るのが、俺の仕事ですから!」

 大輝はそう言って、ちらりとこちらを向く。

 目が合ってしまった。
 眩しいほどの、お日さまみたいな笑顔と。

 ドキリと胸が鳴って、慌てて私は反対の窓に視線を映した。
 窓に映った大輝は、もう前を向いている。
 それで、私ははぁ、と息をもらした。

 大輝は根っから優しい人だ。
 高校生の頃から、それは分かっていたのに、どうしてこんなにも――。

 自分のダメさを呪うように、涙が溢れた。
 泣きたくなんてないのに。

 大輝と自分を比べたら、自分のダメさが際立つことなんて分かってた。
 近づけたなんて、おこがましいことを思ったのも分かってた。

 なのに、比べてしまう。
 大輝が、あまりにも眩しすぎるから。
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