パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 向こうを向いたまま、声を殺して泣く。
 泣いているなんて、バレたくない。

 なのに。

「やっぱり頑張ってたんだな、梓桜。頑張り屋だったもんなぁ、あん時から」

 それ以上言わないで。
 もっともっと、泣いちゃうから。

 けれど何も言えなくて、代わりに涙がどんどん溢れてきた。

 大輝の方なんて向けない。
 こんな顔を、見せられない。
 泣いているのはバレているからこそ、余計に恥ずかしい。

 静かな車内では、私のすすり泣く音がやたらと大きく聞こえる。

 早く家について欲しいのに、車はのろのろと進む。
 だったら早く泣き止みたい。なのに、全然涙が止まらない。

「ごめんね、大輝……」

 泣いてばかりでごめん。
 心配かけてばかりでごめん。
 連絡先も捨ててごめん。

 悪いのは、全部私。

 すると、大輝は泣き止もうとする私の隣で、そっと呟いた。

「恋人同士なら、梓桜のその心の重荷、分けてもらえんのかな」
< 80 / 249 >

この作品をシェア

pagetop