パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「大輝……?」

 その呟きに、反応してしまった。
 涙が止まり、同時に、胸がドキリと鳴った。
 反射的に、彼の名前を呼んでしまった。

「あー……悪い。梓桜には子供もいんのに、そういうこと言うなんてな」

 ううん、と首を横に振る。
 大輝のその気持ちに、反応してしまった自分も恥ずかしい。きっと彼の言葉は、優しさだろう。

「あの時の俺に、梓桜が似てるから。ほら、俺の親が死んでから、梓桜はたっくさん俺のこと抱きしめてくれたろ? あん時梓桜が抱きしめてくれて、心が軽くなった。だから、俺もそういうことできたらって――」

 思わず振り向いた先。大輝は泣き出しそうな顔で、前を向いていた。
 そんな大輝に、申し訳なさでいっぱいになる。

 あの時、私は大人のふりして、余裕のあるふりをしていただけだから。
 あんな風に行動できたのは、『大輝の完璧な恋人でいたい』っていう自分に酔っていただけだから。

 けれどそんなことは言えず、のろのろと走る車の中に、沈黙が訪れる。

「でも、今は分けて欲しいなんて言っちゃダメだよな。俺が言える立場じゃねーと思うし。……旦那さんのこと、今も大切だろ?」

「え?」

「今はシングルマザーでも、旦那さんいたんだろ? だから――」
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