パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「元旦那のことは……大切、じゃ、ないよ」

 うつむくと、膝の上に置いていた手をぐっと握った。
 もう離れた相手のことを、悪く言うのはなんとなく罪悪感がある。

 けれど、たぶん。
 私にとって、あの人はもう、大切な人じゃない。

「辛いからって、死んだ人のこと、そういうふうに言うのは――」

「え?」

 彼の言葉に思わず声がもれ、そうか、と納得した。
 大輝は私が旦那と死に分かれたと思ってたんだ。だから、こんなに優しくしてくれたんだ。

 でも、違う。私は優しくしてもらえるような人間ではないと、伝えないと。

「旦那は今も生きてるよ。離婚したの」

「は?」

 大輝の声に、自嘲するように笑みを浮かべた。

「浮気されちゃったんだ。私は女として、魅力が無いんだって」

 笑みを浮かべたかったのに、上手く笑えなかった。止まっていたはずの涙が溢れそうで、変な顔になってしまったから。
< 82 / 249 >

この作品をシェア

pagetop