パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く

11 本当の気持ち

「幻滅、したでしょ?」

 まだ、のろのろとしか動かない車内、しばらくの沈黙の後。私は、今度は自嘲する笑みを浮かべることができた。ダメな自分を卑下するのに、涙なんかいらない。

「私はね、ダメな人間なんだよ。もっと女として頑張っていたら、浮気なんてされなかった。人として頑張っていたら、すぐに離婚っていう選択肢を取れた」

 言いながら、過去の自分に笑えてくる。ダメすぎる自分に。

「でもそれができなくて、離婚するまで2年もかかって、しかも今は親のすねかじって生きるしかできないような小さな人間なの。大輝に優しくしてもらう筋合いなんて、何にもないダメ人間なの」

 言い出したら、止まらなかった。
 それだけ、大輝に優しさをもらう価値のない人間なのだと、彼に伝えたかったのだと思う。

「だから、今は自立しようって思うのに、息子のことでもすごく母親に頼っちゃってさ。だから父の脳出血だって発見が遅れちゃうし、今だって息子の熱でテンパっちゃって、一人じゃなにもできないんだって思い知らされて――」

「それ以上言うな!」

 堰を切ったように吐きだした思いは、大輝の怒号に止められた。その声のあまりの大きさ、怖さに、肩をピクリと揺らして押し黙った。

 車は渋滞を抜けるように角を曲がり、すいすいと動き出す。
 私はその何とも言いがたい空気の中、びくびくしながら大輝の運転に身を任せるしかできなかった。
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