パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 やがて、車が我が家の前に着く。

「大輝、ありがとう」

 まだ重い空気から逃げるように、さっさとシートベルトを外した。
 なのに。

「待て」

 腕を掴まれ、引かれる。ドアの方を向いていた私は、そのはずみで運転席の方に倒れこんだ。そんな私を、大輝はしっかりと受け止める。そのまま、彼の腕は、私の前にしっかりと回っていた。

 力強い抱擁だった。背中に感じるのは、あの時より一層逞しくなった胸板。両腕の筋肉。それから――

「大輝……」

 ――より一層優しくなった、彼の温もり。

「梓桜、さ」

 大輝の声が、耳のすぐそばで聞こえた。思わずぴくりと肩を揺らす。けれど、大輝はその抱擁を解いてはくれない。

「もっと俺のこと頼っていい。頼れよ。俺が、そうしたいから」
< 84 / 249 >

この作品をシェア

pagetop