パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 大輝が優しいのは、市民を守る消防士だから。
 高校の時からそうだった。誰にでも分け隔てなく、優しい。
 優しさに色があるのなら、それが大輝の色だと思う。

 だから、これもきっと彼の優しさ。私は魅力なんてない、ダメ人間。
 こんな私を特別だって、好いてくれる人なんていない。

 ――これを恋と勘違いしない程度には、私も成長した。
 あの頃とは、もう違う。

 けれど、今だけはもう少し、彼のぬくもりに触れていたいと思ってしまった。
 だから――

「じゃあ、今だけ。……ごめん、甘えさせて」

 くるりと身を翻し、彼の胸に頭をうずめた。その大きな背中に、腕を回した。

 泣いた。
 たくさん、泣いた。

 大輝は私の背中をさすりながら、頭を撫でながら、でもしっかりと私を抱きしめてくれていた。

 これでは、まるで親と子供だ。
 けれど、自分はそのくらい未熟だから、仕方ない。
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