パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「ごめん……」

 言いながら、今だけは許してと心の中で乞う。そんな私を、大輝はゆっくりと優しく包んでくれる。ぎゅうっと強い腕の力、でもそれは私を安心させてくれる。

「たっくさん泣け。俺だって、あの日の梓桜みたいになりてーって思ってんだから」

 ダウンジャケットの上からでも分かる、厚い大輝の胸板。そこから伝わってくるのは、大輝の優しさ。思いやり。

「梓桜は小さい人間なんかじゃない。魅力的じゃないわけない。俺のこと、全部受け止めてくれたあの日、俺は梓桜に抱きしめられながら、かっけーなって憧れてたんだから」

 過去の私は、ただ大人ぶってただけ。
 憧れているのは、私の方だよ。大輝みたいになりたいって、そう思うんだよ。

 けれど、そんなことは言えずに、いろんな感情が胸に溢れて、涙になって零れ落ちてゆく。

「少しでも、軽くして。俺に泣きついて、軽くなるなら」
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