パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
 結局断り切れず、また大輝の車に乗せてもらった。
 先ほど、大号泣を受け止めてもらった手前、ものすごく気まずい。

 なのに、なぜか大輝は嬉しそうだ。

 反対車線は渋滞しておらず、車はすいすいと進む。それだけが、心の救いだった。

「本当にありがとね、色々」

 病院の前に車が停まる。
 深夜の病院は真っ暗で、私たちの乗る車以外、他には誰もいない。

「いいんだよ。好きな女に頼ってもらえたら、俺だって嬉しいし 」

 大輝はサイドブレーキを引きながら言う。

「え…?」

 聞き間違いだろうか。

 と思ったのも、一瞬。
 きっと大輝は『好きだった女』と言いたかったのだろうと思い至る。

 あの時、大輝とお付き合いできて良かった。
 こんなに優しい人と、また再会できて良かった。

 次に会うときは、私ももっと大人になれているといいな。大輝に、胸張って、『大人になりました!』って言えるくらいの。

 そう思って、車を降りようと荷物を持ち上げる。
 なのに、それは大輝の声に制されてしまった。

「あ、連絡先。教えてよ、梓桜に教えただけだと、一向に連絡してこねーから」
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