パパになった消防士は初恋妻を燃え滾る愛で守り貫く
「お邪魔しまーす!」

 いつも通り、爽やかな人懐っこい笑顔を浮かべて大輝が我が家にやってきた。

 トレーナーの上にジャケット姿。ウェストバックを肩掛けにした軽装なのに、右手には紙袋を二つも握り締めている。

 ――きっと元カレが自分の家に来るって、緊張してたのは私だけなんだろうな。

 彼の様子を見て、そんなことを思った。

「君が私の命を……ありがとう、本当にありがとう」

 足が悪いにも関わず、父もその日ばかりは大輝を玄関まで出迎える。父がまだ靴を履いたままの大輝に頭を下げる。

 大輝は恐縮しきった様子で

「いやいや、俺は任務を果たしただけですから」

 と、手を顔の前で振っていた。

「お父さん、そんなところにいたら大輝くんが上がれないでしょう!」

 後ろにいた母に言われ、父ははっとして少し退く。

「ごめんな、つい感極まってしまって――」

 父は後頭部をぽりぽり掻きながら、ゆっくりと壁に手をつき、動きにくい右足をかばいながら方向転換する。大輝はさっと靴を脱ぎ、そのまま父の肩をそっと支えてくれた。

「大輝、ありがとう……」

 ただ黙って見ていただけの私に、大輝は「おう!」と笑いかける。
 それから、私の足元にへばりついている颯麻にも「こんにちは!」と笑いかける。

 こういうことが自然とできてしまう大輝に、やっぱりその優しさを見習いたいと思う。
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