惨夢
     ◇



 重たい空気のままホームルームと授業が始まって、わたしはその時間中、集中できずに何度もみんなの様子を窺ってしまった。

 特に柚と夏樹くん。
 席が近いから以前はそれでよく話していたけれど、今はお互い目を合わせることもしなかった。

 いないもの、見えないものとして扱いながら、少し身体を外側に向けてそっぽを向いている。

(どうしたらいいんだろう)

 このままでは本当に殺し合いが始まりかねない。
 柚の性格からして、ああやって()きつけられた以上、今夜にでも夏樹くんを殺そうとするかも。

 また、そもそもわたしだって安全じゃない。
 夏樹くんはもう殺すことに対する抵抗感をまったく持っていないから、昨晩わたしがそうだったみたいに誰であれ標的にされる可能性があった。

 朝陽くんや高月くんも、いつ豹変(ひょうへん)するか分からない。
 誰に命を狙われてもおかしくない。

 今でこそ正気を保っていられるけれど、仲間に殺されたら残機を取り返すべく躍起(やっき)になるかもしれない。

「…………」

 ぎゅう、と無意識のうちに左腕を握り締めていた。

 残機はもう2しかない。昨晩は生き延びられるはずだったのに、夏樹くんのせいでひとつ無駄にした。
 奪われた。わたしの命が、人殺しの彼を延命するのに利用された。

(取り戻さないと……)

 自然とそこまで考え、はっと我に返る。
 違う、とかぶりを振った。だめだ。

 わたしは絶対、誰も殺したりしない。
 たとえ夢でだって友だちを殺したくなんてないし、とてもそんなことできない。

 残機が尽きる前に、終わらせる方法を考えるべきなのだ。

 せっかくその足がかりや化け物の正体にたどり着けたのだ。諦めるわけにいかない。

 終わらせる方法はある。
 みんなで協力すれば、それを見つけるのも実行するのもきっと不可能じゃない。

 危なかった。
 わたしまで悪意や利己(りこ)主義に飲み込まれるところだった。

(怖い……)

 何より、そうやって自分を見失ってしまうのが。
 誰も信じられなくなることが恐ろしくてたまらない。
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