惨夢
     ◇



 休み時間を迎え、夏樹くんを除いた4人で集まった。
 彼はすぐにどこかへ姿を消した。意図的にわたしたちとの接触を避けている。

「あいつマジで狂ってる。頭おかしいよ」

 柚が低めた声で言った。
 誰のことを言っているのかは明白で、全員の脳裏(のうり)に今朝のことが蘇った。

『残機、返して欲しいなら俺を殺しに来ればいいじゃん』

 挑発するかのように言ってのけた彼。

『ま、返り討ちにしてやるけどな』

 あれは本気だった。
 本気でわたしたちを敵とみなして殺し合うつもりでいる。

「……確かに、まともじゃない」

 朝陽くんも同調する。
 また、空気が重たく(とが)った。吸っているだけで肺に毒が溜まっていく気がして息苦しい。

「まあ……無視はできないな。こうなった以上」

「てか、あんたも殺されたんでしょ? 腹立たないわけ? 何でそんな冷静なのよ」

 唐突(とうとつ)矛先(ほこさき)がわたしに向いて戸惑った。
 理解できない、というふうに眉をひそめられる。

「わたしは……できればもうあんまり思い出したくないっていうか、考えたくない」

「いや、でもさ────」

「昨日、新しく分かったことはない? メモ見つけたとか」

 無理やり話題を変えた。

 これ以上、夏樹くんを悪者として非難し続けていても仕方がない。
 悪夢を終わらせるという目的には近づけない。

 わたしは決して冷静なわけじゃなかった。
 恐れているだけなのだ。感情的になって夏樹くんを恨んだら、ばらばらになった関係性を修復できなくなりそうで。

 生きて、みんなで悪夢から解放されること。
 その可能性を諦めたくない。

「花鈴……」

「わたしはC組の教室で見つけた。これ」

 スマホを取り出し、おさめた写真を見せる。
 “呪い殺す”という内容のものだ。

「!」

 それを見た3人の顔が一拍置いて驚愕(きょうがく)に変わった。
 柚に至ってはおののいたように真っ青だ。

「……?」

「か、花鈴……。それ!」

「え?」

 ぐい、と手を押し返すようにして画面をこちらに向けられる。
 それを見て息をのんだ。

 “オマエダ”。……おまえだ。
 もともとの文言が消え、血の滲んだ文字に変わっていた。

「な、何これ!?」

 おまえを呪い殺す────そう言いたいのだろうか。
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