惨夢
はっとしたり、困惑を滲ませたり、それぞれの反応を目の当たりにする。
「どういうことだ?」
高月くんに聞き返されるけれど、わたしも深い意図を持って発言したわけじゃなかった。
だからうまく説明できない。
「その……なんていうか、わたしたちの中に別の目的を持ってる人が紛れ込んでるんじゃないかって」
「それが、俺たちを殺すこと?」
「ううん、そうとは限らないっていうか、言いきれないんだけど」
自分でも分かるくらい曖昧な主張だ。
何が言いたいのか、わたし自身も捉えきれていない。
「そうかも。てか、それだ。やっぱり夏樹がその“裏切り者”なんだって。あいつ人殺しだもん!」
柚の声に熱が込もる。
心から理解して同調してくれているというより、彼女の場合は正直、夏樹くんを悪者にしたいだけのように思える。
「だが、黒板にその文字が現れた日は、乾はまだ誰も殺してなかっただろ」
「それはそうだけどさ……」
高月くんの真っ当な反論に、柚は返す言葉を見つけられないようだった。
でもわたしは逆に、それでまたひらめくものがあった。
「それなら別の、白石芳乃の事情に関係ある人が、本当にこの中にいるんじゃない?」
もっと言えば、白石芳乃を殺害した犯人が。
うまく言葉にできなかった違和感の正体を掴むことができた。
“裏切り者”が誰にとってのものか、ということだ。
白石芳乃を、ではなく、わたしたちを裏切っている存在がいるのかもしれない。
「……えっ?」
「つまり白石芳乃を殺した犯人が僕たちの中にいて、そいつは僕たちのことまで殺そうとしてる。そう言いたいのか?」
こく、と高月くんの言葉に頷いた。
「……そういうことか。俺たちにとっての“裏切り者”」
朝陽くんが言ったものの、高月くんは「でも」と不可解そうな表情をする。
「ちょっと引っかかるよな。そうなると、白石芳乃が何で犯人を野放しにしてるのか。これじゃ協力関係にあるみたいだ。真っ先に呪い殺されてもおかしくないのに」
どんな理由があって“裏切り者”がわたしたちを狙っているのかは分からないが、それで言うと、そもそも白石芳乃の呪いを利用する必要もない。
「それもそうだし、この中に犯人がいるなんてありえないでしょ! 10年前なんてあたしたちまだ小学生だよ?」
ふたりの言い分は、確かにその通りだ。
高月くんの言う違和感も無視できないし、柚の言葉も正しいと思う。
たとえば覚えていないだけで彼女と知り合いだった可能性はまったくありえなくはないけれど、殺すなんてさすがに非現実的過ぎる。
現場はこの学校の屋上なのだ。
小学生だったわたしたちが怪しまれずに出入りできる場所じゃない。
「……犯人、もう死んでるとしたら?」