惨夢
第六夜

 ふっと身体が宙に投げ出されたような感覚があった。
 そのまま落下する錯覚を覚え、急降下とともに目が覚める。

「!」

 明るい朝の色で満たされているはずの世界は、なぜか()せて感じられた。それなのに、光の粒が散っていて眩しい。

 目の(きわ)が冷たくて、不思議に思いながら目尻を拭うと指先が濡れた。
 いつの間にか泣いていたようだ。光の粒の正体はこれだった。

(昨日、は────)

 思い返すまでもなく頭の中に昨晩の光景が浮かんでくる。
 だけどそれを遮るかのように、突如として左腕が焼けた。

「痛……!」

 細く煙がたなびき、みるみる傷が塞がっていく。
 熱い焼き(ごて)を皮膚に押し当てられ、大火傷を負っているような痛みだ。

「……っ」

 拭ったはずの涙が自ずと再び滲み、わたしは起き上がれないまま身悶(みもだ)えしていた。
 やがて痛みがなくなると、震える腕を確かめる。

 傷は残りひとつ。残機はたったの1だ。

 もう、あと一度でも死んだらおしまいだった。
 もしかしたら、今日が人生最後の日になるかもしれない。



     ◇



 今日は土曜日だけれど、隔週(かくしゅう)で行われる授業日なので登校した。

 半日で終わるため普段より荷物は軽い。でも、気持ちは重かった。
 憂鬱(ゆううつ)さを感じながら教室へ入る。

 柚と夏樹くんの仲は最早、最悪だ。

 ふたりとも塞ぎ込んでいて、自分の席から動こうとしない。

 柚は自分を抱き締めるような形で強く両腕を握り締めていて、夏樹くんは切羽(せっぱ)詰まったように親指の爪を噛んでいた。
 宙へ落とした視線は、何も捉えていない。

「…………」

 遠巻きにふたりを眺めつつ、3人で集まった。
 朝陽くんがこちらへ目を戻す。

「……昨日、どうなった?」

「ああ……結局、職員室からは何も見つからなかった。それから日南と分担して少し経ったあと、非常ベルが鳴ったよな」

「うん、それですぐに屋上開いてたね」

「出られたの?」

 彼が身を乗り出した。
 反対にわたしは俯き、首を横に振る。

「……誰に殺られた?」

 すかさず高月くんが尋ねてきた。
 どきりとして、間近に迫った包丁と柚の()き出しの殺意を思い出してしまう。

「誰っていうか、間に合わなかっただけ」

 それは間違っていないし、嘘をついているわけでもないのに、どうしてか不安気な声色になる。

「本当か?」

 高月くんに懐疑(かいぎ)の眼差しを向けられ、怯んでしまう。

「え……?」

「僕はベルの音を聞いてから上に走ったけど、それでも3階までは行けたぞ。結局、そこで化け物に殺されたが……。日南はどこにいたんだ?」
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