惨夢

「……ばからしいな」

 ふと、視線を戻した高月くんが言った。
 吐き捨てる、とまではいかないものの、非難のような侮蔑(ぶべつ)のような色が混ざっている。

「これじゃまともに向き合ってる僕たちが損して、私利私欲(しりしよく)に走った奴が得するだけだ」

「…………」

 そんなことない、とはさすがに言えなかった。
 膝の上できつく拳を握り締める。

 昨晩もその前もそうだった。

 鍵を探そうと、終わらせる方法を考えようと、そのために動いていただけなのに、柚とわたしは自分本位な行動をとった夏樹くんに殺された。

 昨晩はまた、利己(りこ)的な復讐を果たした柚だけが得をした。失った残機を取り返し、生き延びて。

 真面目に鍵や手がかりを探し、朝陽くんに至っては身を(てい)して守ってくれたというのに、これはそんな自分たちを嘲笑うかのような結果だった。



「……結局、どうしたら終わらせられるんだろう?」

 これ以上、感情が波立っていかないように、恨みに変わらないように、話題を逸らす。
 だけど実際、一番重要なことだ。

「“裏切り者”を見つけ出す。だよね」

 わたしたちの中に紛れ込んでいる犯人の霊。白石芳乃に手を下し、恨まれて、呪い殺されたと思われる彼または彼女。

「そうだとして、それはあくまで僕たちが解放されるための条件だよな」

「……え、どういうこと?」

「悪夢を終わらせることと、呪いそのものを解くこと。それはまったくの別物なんじゃないか」

 はっとした。確かにそうかもしれない。

 “怪談”として不特定多数の人を誘い込んでいることを考えると、この悪夢に閉じ込められたのはわたしたちが初めてではない可能性が高い。

 以前もそうだけれど、これ以降にも、恐らく呪いは続いていく。
 わたしたちが死んでも、生きて解放されても。

「“裏切り者”を見つけ出すことが終わらせるための条件だとしたら……それだけじゃ呪いは解けないってことか」

「仮にそれでわたしたちが解放されても、白石芳乃の怨念(おんねん)は残り続ける」

「ああ。だからまたあの怪談を試す奴らが現れたら、今度はそいつらが悪夢に閉じ込められる。呪いを解かない限りは延々その繰り返しだな」
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