惨夢

 何も知らない不幸な犠牲者が増え続けるわけだ。

 どこかで輪廻(りんね)を断ち切らない限りは。高月くんの言うように、呪いを解かない限りは。

「じゃあ────」

「待て、無理だ」

 口にする前に制された。
 わたしの言わんとすることを正確に読み取ったような高月くんは、険しい表情で“(いな)”を示している。

「僕たちに呪いなんて解けるはずないだろ。そもそも僕たちが解放されるかどうかも怪しいのに、それどころじゃない」

 確かにそれはそうだ。
 終わらせる方法に見当がついても、肝心の“裏切り者”にはまったくたどり着けていない。

「でも、このままじゃ……」

「どうしてもっていうなら、悪夢から解放されてからにしろ。本当の意味で夢から覚められたら、そのとき考えればいい」

「うん、それからでも遅くないと思う。今はとにかく目の前のことに集中しないと……花鈴はもう死ねないんだからさ」

 口を噤む。
 朝陽くんの言葉を受け、急激に心細くなってきた。

 もう死ねない。あとがない。
 ふたりにもまた、もう余裕や猶予(ゆうよ)はない。

 呪いそのものを解くだなんて途方もないことを考えている暇は確かにない。
 一旦それは置いておいて、とにもかくにも終わらせることを最優先するしかないのだ。

「……そうだよね。ごめん、分かった」

 そう言うと、高月くんが一拍置いて口を開く。

「じゃあ“裏切り者”を探そう」

「うん」

 だけど、それについてはどこからどう考えていけばいいのだろう?
 どうしたら見つけ出せるのだろう?

 化け物の正体は判明した。けれど、所詮はそれまでだ。
 分かったところで“裏切り者”へは通じないし、結局は容赦なく襲いかかってくる。

 時間がない。向き合うしかない。

 だけど、このまま答えを出せずに夜になって夢に閉じ込められたら、また二の舞になるだけのように思える。

 脅威は、化け物だけではなくなってしまったから。

 心臓を貫いた刃の感触が、(うつ)ろな夏樹くんの瞳が、正気を失った柚の言葉が、頭の中に浮かんではでたらめに混ざり合う。

(……そうだ)

 何とかしなければならないのは、悪夢のことだけじゃない。
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