惨夢
「よかった」
思わず肩から力が抜けてそうこぼした。
弾かれたように顔を上げた夏樹くんが、怪訝そうに凝視してくる。
「……何でそんなふうに笑えんの? 俺のこと、恨んでないのかよ」
「“許せない”とは確かに思ってたよ。でも謝ってくれたし、反省してるんでしょ?」
「それは……うん。謝って済むことじゃねーけど、本当に悪かったと思ってる。ごめん」
「もういいよ、十分」
いつの間にか強張りがほどけ、頬を緩めていた。
自分でも驚くくらい、怒りも恨みも湧いてこなかった。
純粋に嬉しかった。また、以前のように話せたこと。ちゃんと反省して元に戻ってくれたこと。
これでもう殺し合いなんてしなくて済む。みんなで協力することができるはずだ。
「……柚も許してくれるかな」
「大丈夫だよ、ちゃんと謝れば伝わると思う。きっと意地になってるんだよ。昨日でおあいこなんだから、あとはきっかけがあれば仲直りできるはず」
半分は自分に言い聞かせていた。
昨晩目の当たりにした彼女の恐ろしい一面を否定したくて。
夏樹くんが誠心誠意謝れば、柚だって正気を取り戻すはずだ。そう信じたい。
「それ、で……話って何だ? これ以外にも何かあるんだよな」
間を置いてから、おずおずと切り出す夏樹くん。
「あ、えっと────」
わたしは本題を思い出し、姿勢を正した。
化け物の正体、白石芳乃の死亡記事、わたしたちの中に紛れ込んでいる“裏切り者”。
それを見つけ出して悪夢を終わらせたいと考えていること。
それらを夏樹くんにもすべて伝えておく。
「白石、芳乃……」
「そう。彼女は被害者なの」
だからって誘い込んだ無関係な人たちを次々呪い殺していいわけでは、もちろんないけれど。
それでも、殺されたとなると同情の余地がある気がしてくる。
「“裏切り者”を特定すれば終わんの?」
「たぶん……」
「特定するだけで?」
「え?」
懐疑的な夏樹くんの双眸を見返した。
何が言いたいのだろう。
「……こんなこと言ったら、また俺のこと軽蔑するかもしんないけど」
「なに?」
「見つけ出すだけじゃ足りないんじゃねーかなって」