惨夢

 元に戻ってくれた。夏樹くんも柚も。
 これでふたりのわだかまりも消えたし、みんなで協力することも不可能じゃなくなったはずだ。

 ほっとすると、自分でも気づかないうちに頬が緩んでいた。

「てか、あんた。花鈴にも謝ったんでしょうね?」

「あ、謝ったよ! 当たり前だろ」

 柚は「あっそ、ならいいけど」なんて淡々と返しながら席を立つと、打って変わって泣きそうな表情でわたしの方へ駆け寄ってきた。

「わ……」

 その勢いのままに抱きつかれ、思わずたたらを踏む。
 何が起きたのか咄嗟に分からず困惑してしまう。
 ふわ、と起きた風で我に返った。

「ごめんね、花鈴」

「え」

「あたし、昨日あんたにひどい態度とった。怖がらせたし、傷つけたよね……。本当にごめん!」

 わたしの両肩に手を置き、まっすぐな眼差しと言葉をぶつけてくる。
 そのことをちゃんと気にかけてくれていただなんて意外で、少しの間ほうけてしまった。

「……ううん。もう気にしないで」

 彼女も夏樹くんも、悪夢のせいで恐怖につけ込まれてしまっただけだったのだ。
 気が狂っておかしくなったわけじゃない。

 そうと分かって、心の底から安心した。
 これですべてを水に流して、みんなで同じ方向を目指していける。

「ありがと……。夏樹にも話つけてくれたんでしょ? 花鈴のお陰だね」

「わたしは何も」

 ただ、何とかしたいと思っただけだ。そのために必死だっただけ。
 褒められるようなことは別にしていないけれど、ちょっと報われた気持ちになった。

「朔と成瀬にも迷惑かけてごめんね」

「俺も……ごめん」

 こちらへ歩み寄ってきた夏樹くんも、気まずそうではあるもののそう口にした。

 そっとふたりの反応を窺う。
 朝陽くんが何か言いかけたとき、不意に高月くんが呆れたような息をついた。

「……もういい加減にしてくれ」

 (とげ)のある口調に驚いて思わず彼を見やると、思いきり眉をひそめていた。
 怒っている、というよりは不愉快そうだ。

「おまえたちのくだらない喧嘩のせいで、昨日僕たちがどれだけ苦労したと思う? 結局また殺されたし、日南なんてもう残機1しかないんだぞ」

 柚と夏樹くんは口を(つぐ)んだまま、いたたまれない表情をたたえている。
 わたしも何も言えなくて、つい俯いた。

「“ごめん”で済むのか? 今さら謝られたって残機は戻らないんだ。おまえらを殺さない限りはな」
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