惨夢

「次、行こっか。美術室」

「あ、鍵持ってるかも」

 ポケットの中に手を入れ、冷たい鍵の束を掴んで取り出した。
 朝陽くんが照らしてくれるのを頼りに“美術室”のプレートを探す。

「……あった」

「よし。貸して」

 美術室の鍵を彼に渡し、残りはまたポケットにしまっておいた。
 ライトで照らしながら鍵を挿し込む様子を眺め、何となく気になったことが口をつく。

「バッテリー、大丈夫?」

 解錠(かいじょう)して扉をスライドさせた朝陽くんは、わたしの言葉を受けて思い出したかのように画面を見た。

「うわ、もう10パー切ってる」

「うそ!?」

 ある程度減っているだろうことは予測していたけれど、それを上回る数値の低さだった。

 調べられていない教室はまだ残っているのに、朝陽くんまで光源を失ったら何もできなくなってしまう。

「まずいな。ここに屋上の鍵あればいいけど」

 彼も焦りを滲ませつつ、半ば祈るように言った。
 ふたりで美術室の中へ足を踏み入れた、そのとき。

 ──ジリリリリリリ!

 非常ベルが鳴り響く。
 突然のことにびくりと肩が跳ねた。心臓が止まるかと思った。

 はっと思わず目を見交わす。

「鍵、あったんだ……!」

「よかった!」

 まだ安心できないとはいえ、今夜を生き延びられる可能性がぐんと高まった。
 あとは最上階へ向かい、屋上から飛び降りるだけだ。

「上がろう。朔か夏樹がいるはず」

「うん……!」

 朝陽くんに手を引かれながら、廊下を駆け抜けていく。

 けたたましいベルの音が鼓膜を震わせる中、脳裏(のうり)に血と鉈の色がよぎっては()かしてきた。

 今も真後ろにぴったりと化け物が張りついているような気がしてくる。
 鉈の刃が首筋に迫っているんじゃないか、と恐ろしい想像が絶え間なく湧いてきて青ざめた。

「はぁ……はぁ……っ」

 息を切らせながら西階段を駆け上がっていく。
 屋上へ行くには、そのまま4階の廊下を通って東階段の方へ向かわなければならない。

 4階まで上がりきると、南校舎側の廊下を走り出した。
 先の方にライトの明かりが見えていた。

「誰かいる」

 駆け寄っていくと、こちらに背を向けて立つ姿が照らし出される。
 その人物を認め、はっとした。

「夏樹!」

「夏樹くん! 生きて、た────」

 言葉が途切れ、闇に吸い込まれる。

 その生存と無事を喜んでいる場合では、まったくなかった。
 彼のさらに奥を照らし、衝撃的な光景が目に飛び込んでくる。

「おまえら……」

 夏樹くんは振り向かないまま、硬い声で言った。
 油断なく前を見据えている。

 足元に広がる血の海と、その上に横たわる高月くんの遺体。
 それを挟んで、夏樹くんと化け物が対峙(たいじ)しているところだった。
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