惨夢
最終夜
深い闇の底へ落ちて、沈んでいく。
前も後ろも右も左もない果てしない暗闇が、わたしを飲み込む────。
『死ね』
耳元で白石芳乃の声がした。
「……っ!!」
はっと一気に意識が覚醒する。
気道を空気が通り抜け、息が止まっていたことに気がついた。
「はぁ……はぁ……」
肩で大きく呼吸する。
知らないうちに滲んでいた冷や汗を拭う。
それから胸に手を当てた。
どく、どく、と速く打つ心臓。その音と振動を掌越しに確かめ、思わず呟く。
「生きてる」
それは間違いなく、みんなのお陰だった。
死は依然として後ろ髪を捉えたままだけれど、昨晩を生き延びられたのは、紛れもなくみんなの助けがあったからだ。
その事実を噛み締めると、涙が込み上げてきた。
視界が光で満たされていく。
『今夜を最後にはさせないから』
みんなが、わたしの命を繋いでくれたんだ。
◇
今日は日曜日。普段なら嬉しい休日だけれど、今は煩わしかった。
会って色々話したいのに、約束をとりつけないといけない。
スマホを取り出すと何件かメッセージが来ていた。
通知の一番上をタップする。柚だ。
【花鈴、生きてるよね?】
【おはよう、大丈夫だよ】
そう返すと、すぐに既読がついて、立て続けに「よかった」と安堵してくれる内容のメッセージが届く。
そんなに心配してくれていたんだ、と正直嬉しくなった。
【どこかで集まれないかな】
【夏樹が部活らしいから学校でいいんじゃない? 自習する人のために教室も開いてるらしいし】
【わかった。今から行くね】
柚とのやりとりを終え、大急ぎで支度を整える。
ほかにも朝陽くんやみんなからメッセージが届いていたけれど、一刻も早く会いたい気持ちが勝って、返信するより先に家を出た。
教室には既に4人の姿があった。ほかに人はいない。
夏樹くんは結局、部活には行っていないようだ。それどころじゃないと判断したのかも。
中へ入ろうとしたとき、はっとした表情の彼らと目が合う。
「お、おはよう」
視線を一身に浴びてたじろぎつつも笑いかけると、弾かれたように朝陽くんが動いた。
目の前まで来た彼は、そのままわたしの方へ手を伸ばす。
気づいたら、わたしは朝陽くんの腕の中にいた。
「え……っ」
あまりにびっくりして、目を見張ったまま息が止まる。
抱きしめられている、と認識した途端、鼓動が加速していった。
「……よかった。無事で」