惨夢

 それに触発(しょくはつ)されたように、各々が自分のスマホを確認する。

 わたしも同じようにポケットから取り出したそれの画面を確かめてみると、左上には“圏外”と表示されていた。

「何で……」

「さっきの地震で、とか?」

「いや、そんなまさか」

 苦笑する柚だけれど、先ほどより明らかに余裕を失っている。

「もうガチで帰ろうぜ。……いや、いい。俺ひとりでも帰る」

 戦々恐々(せんせんきょうきょう)とした様子の夏樹くんが(きびす)を返した。

 そのまま渡り廊下へ出ようとしたものの、寸前でぴたりと足を止める。

 戸枠を掴んで慌てて立ち止まった、といった具合だ。

「夏樹くん?」

 どうしたのだろう。
 訝しみながらその名を呼ぶけれど、彼は振り向かない。

「……ない」

 絞り出したような声で呟く。

「え?」

「地面が!」

 今度は勢いよくこちらを振り返った。
 叩きつけるように足元を指しながら。

「うそ……」

 混乱した。わけが分からなかった。

 でも確かに、地面がない。

 先ほど通ってきたはずの渡り廊下は跡形もなく消え去っている。

 というか、戸枠の向こう側の何もかもがなくなっていた。

 墨汁をぶちまけたような真っ暗闇が広がるだけ。
 夜の暗さというレベルではなく、底知れない暗黒だ。

「どうなってんだよ!?」

 本当に、何がどうなっているのか……。
 混乱が突き抜けて、もう頭が働かなかった。

「ありえないでしょ、こんなの」

「でも現に起きてることじゃん……!」

 目の前の超常現象に圧倒され、呆然(ぼうぜん)としてしまう。

 だけど、これじゃ外へ出られない。
 つまり家に帰ることもできないわけだ。

 そのことだけは冷静に理解していた。
 いったい、どうすれば────。

「別の出入口は? 正面玄関とか」

 高月くんの言葉にはっとする。
 それはわたし以外の3人も同じだった。

「見に行ってみよ。意味不明なことになってんのはここだけかもしんない」

 柚が希望を込めた口調で言った。
 スマホのライトで先を照らしながら歩き出す。

 彼女のあとに続き、(すが)るような気持ちで足早に廊下を進んだ。
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