惨夢

「……朝陽くんも同じだったんだ」

 小さく笑いながら呟くと、彼は驚いたようにこちらを向いた。
 その眼差しを受け止めながら続ける。

「わたしも、ずっと気になってた」

 今さら想いに蓋なんてできなかった。
 積み上げてきた過去の一部として受け流すことも。

「────俺は」

 朝陽くんは足を止め、身体ごとわたしに向き直った。
 地面に影が伸びて傾く。

「あのとき、花鈴のことが好きだったよ」

 微笑んでいるのに悲しげに見えて、心が切ない色に染まっていく。
 儚い雰囲気に飲まれていく。

 速く打つ鼓動が現実感を知らしめてきた。

 幼い頃のあどけない面影(おもかげ)が、大人びた彼の表情の中に覗いている。

 あの朝陽くんが、本当に目の前にいる。
 そのことを今さら実感した。

「朝陽くん……」

「初恋だった。どうしたらいいのか分かんないで、何もできないうちに会えなくなってさ」

 言いながら視線を落とす。その頬に夕日が当たって(あかね)がさした。

「偶然同じクラスになって再会したときは、本当にびっくりしたけど……嬉しかった。そのくせびびってなかなか声かけられなかったけど」

 眉を下げ、朝陽くんが笑った。
 それから再びわたしを捉えた双眸(そうぼう)は、息をのむほど優しかった。

「だけど、俺もずっと気になってた。離れてた間も、また会えてからも。……それで、気づいた」

 瞬きも忘れてその瞳を見つめる。
 覚悟を決めたように、彼は息を吸った。

「俺は花鈴のことが好き。その気持ちは、今も変わってなかった」

 心音が響く。苦しいほど速く、でも心地いい、どこか懐かしいようなリズム。

 わたしも忘れていなかった。
 変わっていなかった。
 あの頃抱いていた想いは、今も胸の奥で光ったまま。

(……やっぱり、好きだなぁ)

 朝陽くんの態度は真剣さを帯びていたけれど、(やわ)らいだ表情のお陰でわたしが追い詰められることはなかった。

 ふ、と目を伏せるように視線を逸らし、彼が前を向く。

「……まだやりたいことが色々ある。こんなところで終われないよ。死にたくない」

 そうだ、彼もわたしと同じ状況に置かれている。
 残機は1。あと一度でも殺されたら、死ぬ。

「……そうだよね」

 漠然(ばくぜん)と考えていた将来が想像で終わるなんて嫌だし、朝陽くんと一緒にどこかへ出かけたりもしてみたい。

 思わず唇を噛み締めて返したとき、彼はいっそう真剣な顔になった。

「花鈴にも死んで欲しくない」
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