惨夢

 その眼差しが突き刺さり、呼吸を忘れる。

「…………」

 そう言ってくれるのは嬉しかった。本気で心配してくれていることが伝わってくる。

 だけど、だから“やめておけ”と言いたいのだろうか。

 化け物と直接相対(あいたい)して話をする、なんてあまりにも無謀で危険すぎるから。
 ……そのことは、わたしも分かっている。

 顔を合わせた途端、あっさり殺されて終わるかもしれない。
 話をする段階にも及べないまま。

 せっかくこうしてまた朝陽くんと会えたのに、距離が近づいたのに、再び離れ離れになんてなりたくはない。
 しかもその場合、もう二度と、一生会えない。

「だからさ。今夜どうなるか分かんないけど……ひとりでなんて背負わせないから」

「えっ」

 続けられた言葉は意外なもので、わたしは思わず目を見張った。

「どうなっても、何があっても、最後まで一緒にいる」

 優しく掴まれた掌を、ぎゅ、と握られる。
 繋いだ手から体温が溶け合って、つい泣きそうになった。

「……っ」

 何か言おうと思ったのに、開きかけた唇からは震える吐息がこぼれるばかりだ。

「花鈴……? ごめん! 嫌だった?」

 慌てた彼が手を離そうと指をほどく。わたしは咄嗟に力を込めて(はば)んだ。

「ちがうの。……嬉しくて」

 そう伝えるだけで精一杯だった。
 同時にそれが、伝えられる本心の“限界”でもあった。

 わたしも朝陽くんのことが好き。
 初恋だったし、そうじゃなくてもきっとその優しさに惹かれていたと思う。

(でも……)

 彼との思い出を手繰(たぐ)るたび、彼との時間に満たされるたび、心は不安の色を濃くしていくのだ。

(わたしは今、生きてるのかな)

 確かにちゃんと現実世界に存在している。
 こうして朝陽くんの手を握って、その体温を感じている。

 でも、この感覚は本物なのだろうか?
 わたしや彼、みんなの頭の中にある記憶や心の中にある気持ちは、本物なのだろうか?

 わたしは実在しているのだろうか。
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