惨夢
     ◇



 結果からすると、正面玄関の向こう側もまったく同じ状態だった。

 扉は開いても外がない。
 深淵(しんえん)の闇が果てしなく広がっている。

「……どうしよう」

「閉じ込められた、ってこと?」

 誰も肯定しなかったけれど、否定もしなかった。
 その沈黙が答えだ。

 今になって察しがつく。

 先ほどの地震のような揺れや轟音は、もしかしたら外の世界が崩落(ほうらく)した合図だったのかもしれない。

「ねぇ……俺、帰りたい」

「見えないだけで本当は地面あったりしない?」

 しゃがみ込んでいた夏樹くんが、はっとしたように立ち上がる。

 しばらく考えるように闇を眺め、履いていたスニーカーを脱いだ。
 それを扉の向こう側に向かって投げる。

 確かにそのやり方なら、直接外へ出なくても確かめられる。

 飛び出していったスニーカーは、そのまま暗闇の中へ落ちて見えなくなった。
 底へ到達したような音すら聞こえない。

「……だめだ」

「底なし?」

「もー……。俺のスニーカー返せよ」

 もし彼自身が外へ出ていたら、と思うとぞっとする。
 今頃はこの暗黒の中を真っ逆さまだっただろう。

 ……まったくもって奇妙な状況になった。

 この校舎は今、どういう状態なのだろう?

 まさか闇の中にぽつんと浮かび上がっているとでも言うのだろうか。

「どうする?」

 誰にともなく朝陽くんが尋ねる。
 困り果てているのが一目で窺えた。

「とりあえず……ここで明るくなるの待つしかなくない?」

 全員を見回しつつ柚が言う。

 大人しくそれを待ってどうにかなるのかは正直分からない。

 もし、この校舎だけが世界から隔離されてしまっていたとしたら。
 ありえないと思いながらも考えてしまう。

 とんでもない事態に陥っていることは間違いないのだ。
 もしかしたらここは異世界で、わたしたちはそこへ迷い込んでしまったのかもしれない。

(どうしたらいいの?)

 外へは出られない。
 連絡もとれない。
 そうなると、とれる選択肢は限られてくる。

「……明るくなんてなるのか?」

 一際(ひときわ)冷静に、高月くんが言い放った。
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