惨夢
ひとりでに言葉がこぼれ落ちていった。
ほとんど声にならないような、ひび割れた呟きになった。
「そんな……。そんなわけ……」
うわ言のように繰り返す。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなっていった。
朝陽くんとの思い出が、記憶が、頭の中で蘇ってはぐちゃぐちゃに混ざり合って溶ける。
目の前が滲んで揺れた。
足から力が抜けて思わずたたらを踏んだとき、左手に乾いた感触を覚えた。
「……?」
訝しみながら見やると、1枚のメモを握っていた。
こんなもの、手にした覚えはないのに。
震えながら開いてみる。
「“不完全”……?」
それだけ記してあった。紛うことなき芳乃の言葉だ。
何が不完全なのだろう。
何が足りなかったのだろう。
そもそも今、何が起きているの……?
もうわけが分からない。
状況を理解することを、真実を受け止めることを、脳が拒んでいる。
「ふふ……。あははっ」
唐突に笑い声が響いてきた。
いつの間にか揺れはおさまり、轟音も聞こえなくなっている。
混乱しながら振り向いた。
屋上のドア前に、腕を組んだ女子生徒がひとり立っていた。
血まみれでも濡れそぼってもいなければ、鉈を持ってもいないし、全身が折れてもいなかった。
だけど、分かる。白石芳乃だ。生前の姿なのだろう。
「残念だったわね」
彼女はもたれていた背を起こし、わたしたちの方へと歩んできた。
不思議と恐怖は感じない。ただただ混乱した。
「どういう、こと……?」
「あなたの推理。惜しかったけど、不完全」
それは最後の部分だろうか。
わたしが“裏切り者”なら、と告げたところ。
それともそれ以外の部分?
“不完全”ということは、根本的に的外れということはないのだろうけれど……。
いや、そんなの今はどうだっていい。
朝陽くんは結局、何なのだろう?
どうなるのだろう?
わたしは、ほかのみんなは、悪夢は……。