惨夢
「色々と例外だけど、今回は特別。遊びはこれで終わりにしてあげる。……わたしのこと、分かってくれたから」
わたしの胸の内にはびこった疑問を読み取ったかのように、芳乃はそう言った。
それは彼女の正体や死の真相のことだろう。……不完全らしいけれど。
紛れ込んでいる“裏切り者”を暴いて殺す────。
その終了条件を完璧には達成出来なかったものの、白石芳乃という人物や他殺であることにたどり着いたお陰で、例外的に悪夢から解放してくれるようだ。
そうか、と思った。
終了条件を満たすには、彼女が白石芳乃であることやいじめを受けていたことなどを暴く必要まではないのだ。
それでも、ほとんど成り行きとはいえそれを突き止めたことが功を奏した。
芳乃は満足したのだろう。
真相を知って欲しいんじゃないか、という推測はある意味正しかった。
ともかく、わたしたちは解放される。悪夢から抜け出せる。
(助かる……)
なのに、そうと分かっても全然心の靄が晴れない。
「それに……結構面白いもの見れたしね。この裏切り者が初恋だなんだって右往左往してたとこ。笑っちゃう」
芳乃は冷ややかに笑う。
この裏切り者、と朝陽くんの方をおざなりに顎でしゃくって示した。
「朝陽くん……」
「…………」
動揺を隠しきれないまま、わたしは彼を見やった。
放心状態の彼は、地面に視線を落としたまま唖然としている。
「……分からない?」
ふと芳乃が表情を消し、こちらを見据えた。
不機嫌そうに苛立っている。
「“成瀬朝陽”なんて人物は存在しないの。記憶も思い出もぜんぶ偽物」
そう畳みかけた彼女は、容赦なく追い討ちをかけてくる。
「あなたが抱いてる気持ちも、ただのまやかしだから」