惨夢
歩み寄ってきた友だちが、その勢いのまま肩に腕を回してくる。
「うわ、何だよ」
「なあ、今どきの小学生って何が欲しいかな?」
「え? いきなりなに?」
何の脈絡もない話だ。今どきの小学生?
「もうすぐいとこの誕生日なんだよー。夏樹っていってさ、俺みたいに明るくてかわいい奴なんだけど」
「かわいい……? おまえが?」
「なにその反応。そんな褒めんなよ」
「褒めてねーし」
彼の話を適当に流しつつ、鞄からグミを取り出した。グレープ味のちょっと硬めのやつ。
昼食はとったが、何となく口寂しくなってつまんだ。
彼も勝手に袋からひとつつまんで出すと口に放り込む。
「おい」
「……なあ、おまえさ」
咎めるべく口を開いたところ、いつになく真剣な雰囲気で機先を制された。
「白石芳乃と幼なじみなんだろ?」
どきりとする。
予想外の言葉に反応が遅れ、適当にはぐらかすには間を置きすぎてしまった。
「……何で知ってんの?」
正直、意図的に隠していた。
実際のところ“幼なじみ”というだけで、それ以上でも以下でもないが。
でも、それだけで近しい存在だと認識される。周囲にも芳乃本人にも。
もう何年も話していないのに、あいつは未だに僕を「特別」だと思っている。
僕にとってはたまったもんじゃない。
同類だと思われたら、同じ目に遭わされるかもしれないのだ。
クラスの女子3人くらいなら知れていても、あいつらは先輩や他校にも繋がりがある。やばい連中と。
自分の身の安全のためにも、芳乃との関係は大っぴらにしたくなかった。
「何かあいつが自分で言ってたけど。片桐と話せなくなって寂しい、って」
「はあ?」
瞬時に沸いた苛立ちが全面的に声に乗った。
「何だよ、それ……。てか、何でおまえに?」
「おまえとよく話してるからじゃね? “蒼汰くんと仲いいよね”って声かけられたし」
冷や汗が滲んだ。
心臓が嫌な収縮を繰り返している。
(ふざけんなよ)
込み上げた焦りが冷静さを奪っていく。
こいつだったからまだよかったようなものの、芳乃がそれをあのばか女たちの前で口にしたら。
「……っ」
血の気が引いた。
恐れていた事態が現実となるに違いない。
いらいらしながら昼休みの終わりを迎えた。
チャイムが鳴り、彼も席へ戻っていく。
教科書を取り出そうと机の中に手を入れたとき、指先に何かが触れた。
かさ、と乾いた音がする。
「…………」
またか、と思った。
うんざりしながら掴む。小さなメモだ。
白地に横線の入った何の変哲もない代物。折られていたそれを開いてみる。
“放課後、屋上で待ってる”