惨夢

 指し示された先を目で追うと、確かにカテゴリー名に“学校の怪談”とあった。

 黒い背景に掠れたような赤文字。
 いかにもな雰囲気で、柚が今話してくれたのと同じ内容が書かれている。

「今夜試してみない?」

「えっ!?」

 突拍子(とっぴょうし)もない提案に目を見張る。

「この怪談。プール行ってみようよ、幽霊が願い叶えてくれるかも」

「あ! その話、俺も知ってる」

 唐突(とうとつ)に割って入ってきたのは夏樹(なつき)くんだった。

 明るいお調子者といった印象だけれど、クラスのムードメーカー的存在だ。
 柚はしばしば彼を“愛すべきばか”と評している。

「学校裏サイトのやつだろ」

「へー、あんたも知ってんだ」

 意外そうに柚が言った。
 わたしも同じような表情をしてしまう。

 有名なのだろうか?
 学校裏サイトの存在も、その怪談も……。

「じゃあ夏樹も来なよ。うちら、今夜忍び込んで試してみるからさ」

「え? ち、ちょっと待って!」

「マジで!? めっちゃ楽しそうじゃん、俺も行く!」

 わたしは行くと言った覚えなどないけれど、いつの間にか決定事項になっている。

 夏樹くんまで先ほどの柚のように瞳を輝かせた。
 すっかり乗り気のふたりについていけない。

 ぐい、と彼女の袖を引っ張った。

「本当にやるの……?」

「なーに、花鈴。怖いの?」

 思わず不安気に尋ねてしまうと、からかうようににやりと笑って首を傾げられる。

「大丈夫だって。どうせ何も起きないから」

「ちょ、何でそんな夢のないこと言うわけ? 信じてないの?」

「いや、そりゃ信じてるけどさ────」

 なんて言い合うふたりを困ったように見比べる。

 わたしも本気で信じているわけではないけれど、漠然(ばくぜん)(うれ)いてしまう。
 悪ノリだと分かっているからこその気後(きおく)れ。

 その幽霊を恐れているのか、勝手に学校へ侵入したあとのことを恐れているのか、自分でもよく分からないけれど。

「ねぇ、行くよね? 花鈴」
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