惨夢

「ここも開かない」

「まさかどこも閉まってるんじゃ……」

 わたしたちの言葉を受け、高月くんは思案顔で顎に手を当てた。

 その間も柚の無事が案じられてならない。
 どの教室も開かないのだとしたら、隠れてやり過ごすこともできないということだ。
 力尽きるまで逃げ続けなければならない。

「……どこかに隠されてるんじゃないか」

「え?」

「鍵は校内のどこかにあって、それを見つけないといけないのかも」

 高月くんの平板な声が暗闇に吸い込まれていく。
 落ち着いて見えるけれど、決して冷静なわけではなかった。

 不確かな推測を声に出すことで、可能性を吟味(ぎんみ)しているようだ。

「だけど鍵なんて探して意味ある? 結局外には出られないじゃん」

 朝陽くんの言い分はもっともに思えた。

 現状、開くのは外へと続く扉だけ。
 しかし肝心の外は深淵の常闇(とこやみ)

 各教室の鍵が本当に校舎内に隠されていたとして、それを探し出して開けることができたとしても、脱出には直接関係がないような気がする。

「もしかしたら、外に出るためのヒントだって見つかるかもしれないだろ。それとも何だ、来ない朝を待って大人しくあの化け物に殺されるか?」

 彼にも余裕なんてない。やたらとつんけんしているのはそのせいだ。

 朝陽くんは黙って正面玄関の方を振り返った。
 ここからだと直接は見えないけれど、そこには夏樹くんの惨殺死体が転がっている。

「……分かったよ」

 視線を戻すと、高月くんと同じように刺々(とげとげ)しく返した。

 そのまま歩き出した彼のあとを慌てて追いかける。
 たぶん、先ほど言っていた通り教室へ向かっているのだ。

「僕はこのまま1階に残る」

 高月くんが毅然と言ってのけ、思わず弾かれたように振り返った。

「ひ、ひとりで?」

「同じことだ。3人で固まってたって殺されるときは殺される」

「どうすんの?」

「鍵を探しながら、本当に開く教室はないのか調べてみる」

「分かった。じゃあ俺たちは上見にいくから、何かあったら教室で合流ってことで。開くか分かんないけど」

「ああ、それでいい」

 そう答え、さっと背を向けた高月くんが臆することなく廊下を歩いていく。

 大丈夫だろうか。
 ひとり行動なんてやっぱり危ないんじゃないか。

 不安を拭えない面持ちでそれを見つめていると、ぱっと真横が白く光った。
 朝陽くんがスマホのライトをつけたのだ。

「行こ」
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