惨夢
「どういうこと?」
「わ、分かんない……けど」
ふと頭の中に、プールから目にした光景が蘇った。
あの女子生徒の霊が屋上から転落していく姿が鮮やかに焼きついている。
「屋上から飛び降りろ、ってこと……?」
同じことを思い出したらしい朝陽くんが言った。
「まさか! そんなことしたら死んじゃう」
「だけど“死ね”って……そういうことじゃん」
信じられない思いで彼の双眸を見上げる。
不安そうな色に染まりきっていた。
朝陽くんは何も、そうしようと言ったわけじゃない。
ただ現状を見て考えをまとめているだけだ。
わたしはもう一度、黒板に視線を戻した。
出口のない校舎。
容赦なく襲いかかってくる化け物。
学校の怪談。
これは、軽い気持ちで禁忌に触れたわたしたちへの罰なのだろうか。
助かる方法はないのだろうか。
「……屋上、見に行ってみない?」
細い声で言うと、彼は目を見張った。
「本気で飛び降りるつもり?」
「そうじゃなくて……! これは、高月くんが言ってたみたいなヒントなのかもって」
この文字を額面通りに受け取るべきではそもそもないのかもしれない。
暗に示された“屋上”という場所に、もしかしたら何かがあるのかも。
「そっか、確かに。思いついたことは試してくべきだな」
左右を確かめてから、再び廊下に出た。
今のところ何の異変も窺えない。
あの化け物の気配は柚を追っていったきり遠ざかったように思えて、緊張感は消えなくても恐怖はいくらか緩和された。
息を殺し、足音を忍ばせ、注意深くライトで照らしながら東側の階段を上っていく。
屋上へはこちら側からしか出られない。
心臓が強く速く打ち、踏み出す一歩が重たかった。
果てしなく続いているように思えた階段がふと途切れる。
屋上のドアが見えた。
最上階へたどり着いたのだ。
普段は立ち入り禁止になっているため、ここまで来るのは初めてだった。
「……開くかな」
ぽつりと朝陽くんが呟く。
よく見るとドアノブに鍵穴があった。磨りガラスになっている小窓の向こうは真っ黒だ。
彼は教室のときより気を張ったままドアノブを掴む。