惨夢

 そのまま捻ると回ったけれど、押し込んでもドアはびくともしなかった。

 開かない。
 鍵がかかっている。

 お互いがそれを認識し、無言で目を見交わした。

「……でも、まあこれなら飛び降りようにもできないな」

「いや、高月くんの言う通りなのかも……」

「え?」

「鍵を探す」

 そう言うと、朝陽くんがそろりとドアノブから手を離す。

 実際、飛び降りる気なんてさらさらない。

 けれど、屋上に出ることが何かヒントに繋がるかもしれない、というのが単なる憶測だとは捨てきれない。

「……とりあえず戻ってみるか。朔のことも心配だし」

「そうだね。……あ、黒板の文字のこと伝えて一緒に来た方がよかったかな」

「んー。何かあったら教室集合って言ってあるし、朔ならあれ見た時点で屋上だって察して来そうだけど」

 おさえた声で話しながら階段を下りていく。

 3階から2階へと続くその踊り場にさしかかったとき、スピーカーがノイズを発した。

 ──キーンコーンカーンコーン……

 少し前に聞いたのと同じ、耳障りなチャイムだ。
 音割れして濁ったような不気味な音が鳴り響く。

「なに……」

「また鳴った」

 つい足を止めて困惑していると、今度は地鳴りが聞こえた。
 ゴォォ……と重厚な振動音が空気を揺らす。

「まさかまた地震!?」

 あの激しい大きな揺れを思い出し、咄嗟に手すりに掴まった。
 ぐら、と足元が動き、目眩(めまい)を覚えたかのように視界がぶれる。

 けれど、いくら身構えてもあれほどの強い揺れは一向に訪れなかった。
 確かに揺れてはいるものの、立っていられないほどではない。

 そのとき、何かが崩れるような轟音が響く。

「う、ああぁっ!」

 直後、突如としてそんな叫び声が耳を割った。
 はっとして朝陽くんと顔を見合わせる。

 今のは階下の方から聞こえてきた。

「高月くん……!?」

 彼の身に何かあったのだ。
 直感的にそう思い至り、慌てて階段を駆け下りていく。

 何度も転がり落ちそうになりながら、手すりを掴んでどうにか免れた。

 揺れや音が止んだのは、わたしたちが2階と1階を繋ぐ階段へさしかかったときだった。

「えっ!?」

「な……っ」

 足が止まる。止めざるを得なかった。

 かつ、とつま先が瓦礫(がれき)の小石を弾くと、それが奈落へ落ちていく。

 目の前から、1階そのものが消えていた。
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