惨夢
腕をおさえたまま顔を歪めた。傷口から煙が上がっている。
焼け焦げるような激痛がおさまると、やがて跡形もなく傷が消えた。
ほかの4本に変化はない。恐る恐る触れてもなぜか痛みは感じなかった。
(こんな怪我、いつの間に……)
まったくもって身に覚えがない。
それ以前に、そもそも今のはどういうことなのだろう?
わたしは混乱したまま、腕をまじまじと眺める。
傷がひとつ、焼けるようにして突然消えた。ありえない現象だ。
「……あ、あれ?」
そうしているうちに、自分が制服姿であることに今になって気がついた。
このまま眠っていたみたいだけれど、しわひとつない。
だけど、やっぱり着替えた記憶もベッドに入った記憶もなかった。
戸惑う頭にちらつくのは、あの惨たらしい夢のこと。
腕の傷やそのうちのひとつが唐突に消えた不可解な現象と関係があるのかもしれない。
ありえない、そんなわけがない、ただの夢だ────なんて流せないのは、奇妙な違和感が胸の内に巣くっていたからだ。
「昨日の……どこからが夢だったの?」
そんな自分自身の言葉が鉛のように重く心にのしかかってくる。
もしかしたら実際のところはとっくに寝落ちしていて、学校には向かっていなかったのかもしれない。
夜に家を出たこと自体が夢だったのかも。
(でもそのことも、そのあとのことも、こんなに細かくはっきり覚えてるのに……)
解せない不気味な感覚がぞわぞわと背中を這う。
夢と現実との境界線が分からなくなっていた。
◇
「全員、同じ夢を見た……!?」
柚が驚きを顕にそれぞれの顔を凝視する。
教室で会したわたしたち5人は、何となく窓際に寄って集まっていた。
あの夢の話を切り出した夏樹くんに柚が同調し、なんと全員がまったく同じ夢を見ていた、ということが判明した。
真夜中の校舎に閉じ込められ、鉈を持った幽霊に殺される悪夢を。
「“これ”も……みんな同じ?」