惨夢

 距離を詰めた柚がこちらを覗き込むようにして聞いてくる。

「う、うん」

 考える前にほとんど口をついて答えていた。

 ここで“(いな)”と言えるような()の強さなんてわたしは持ち合わせていない。

「やったー! じゃあ今夜10時、校門前に来てね」

 柚がわたしと夏樹くんをそれぞれ見て言った。

「10時? 遅くね? 日没後でいいんだろ?」

「だってあたしバイトあるしー」

「おまえの都合かよ」

「それだけじゃないって。もうひとり誘おうと思ってるから」

 どうやらその人の都合でもあるらしい。

「誰?」

「そんときになったら分かるよ。じゃ、またあとで!」

 いつも通りのマイペースさを発揮しながら、柚は自分の席に戻っていった。

「……ったく。勝手だなー」

 そう言った夏樹くんが代わりにそこへ腰を下ろす。
 わたしは肩をすくめて笑った。
 だけど何だか憎めない、というのが柚だ。

「……幽霊なんていないよな?」

 どこか心細そうな声色で呟いたのを聞き、ふと顔を上げた。

「怖いの?」

「はっ? そんなんじゃねーよ」

「“楽しそう”って言ってたのに、夏樹くんって実は怖がりなんだ」

「だからそんなんじゃねーって!」

 慌てた彼を見て思わず笑ってしまう。
 そのお陰でわたしの不安は何だか逆に()いでいった。

 学校の怪談なんて所詮、ただの噂。
 眉唾(まゆつば)ものだ。

 何かが起こるなんてとても思えない。
 ましてや幽霊なんて非現実的な存在、いるはずがない。

 そんな思いが強まっていく。

「夏樹、顔色真っ青だよ」

 不意に背後からそんな声がして、どきりと心臓が跳ねた。

「だから俺、びびってねーって!」

「びびってんだ」

 振り向くと、くすくすと笑いながら歩を進めてくる朝陽(あさひ)くんの姿があった。

「なに話してたの?」
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