惨夢
「そんなこと今さら責め合ってたってしょうがないって。どっちの言い分も本当のことでしょ」
「それは……まぁ」
反論しかけた柚だったけれど、勢いを削がれて気まずそうに顔を逸らした。
最初に怪談の話をして“試してみよう”と言い出したのは確かに彼女だ。
また、夏樹くんがそれに乗ったのも事実だった。
「俺たちもさ、最終的には自分の意思で乗っかったわけだし。誰かひとりの責任ってことはないんじゃない?」
わたしや高月くんを一瞥してから、ふたりに向き直った朝陽くんはそう続ける。
柚と夏樹くんの顔から毒気が抜けていくのが目に見えて分かった。
「……そう、だな。まぁ、もう終わったことだし」
ばつが悪そうに後頭部をかき、夏樹くんが言う。
「悪い、柚。八つ当たりして」
それを受けた彼女は口端を結び、ちら、と夏樹くんの方を窺いつつ告げた。
「……あたしも、ごめん」
その様子を受けてわたしは驚くと同時に、素直に感心してしまう。
(……すごい、朝陽くん)
彼がいなかったら、ふたりが仲違いするのをなす術なく見ていることしかできなかった。
よかった、そんな事態にならなくて。
ほっと息をつくと、朝陽くんも気を抜いたような笑みをたたえていた。
「“もう終わったこと”か? 本当に」
一際鋭い高月くんの声が空気を揺らす。
それまで沈黙を貫いていただけに、尚さら重々しく感じられる。
彼は真剣な眼差しで自身の腕の傷を眺めていた。
わたしたちの注目を集めた上で顔を上げる。
「むしろ始まったところなんじゃないか」
その言葉にどきりとした。
一気にかき立てられた不安がうごめく。
「……なに言ってんだよ、朔。もう十分怖い思いしたじゃんか」
「そうよ。あの怪談はでたらめで、願いを叶えてもらえるんじゃなくて“悪夢を見せられる”ってのが実態だった。そんで全員殺される悪夢を見た! それで終わりでしょ?」
そんな夏樹くんと柚の言葉を信じたいけれど、それでは腑に落ちない部分が残っている。
そしてそのことを、たぶんふたりとも頭のどこかではちゃんと理解しているはず。
「だったらこの傷は何なんだ」