惨夢

 高月くんは腕を掲げ、現実を突きつけた。

 鋭い4本線を目の当たりにし、口を閉じるほかなくなる。

「僕たちはきっと(とら)われた」

 彼はゆっくりと腕を下ろし、袖を戻す。

「囚われたって……何に?」

「さぁ。あの悪夢か、化け物か、どっちにしても続くってことだ」

 昨晩のような、恐ろしい夢が。
 あるいは殺される日々が、という意味だろう。

「何でそう思うの?」

「……この傷が何なのか考えてた。ひとつ減った意味も」

「で……分かったわけ?」

「可能性はふたつだ。ひとつは日数。5日間というタイムリミットが(もう)けられてるのかも」

 確かにありうるかもしれない。

 何のためのリミットなのかは、今のところ全然分からないけれど。

「もうひとつは、残機(ざんき)

「残機? って、ゲームとかの?」

「そう、プレイヤーストックのことだ。つまりは“死”が許される回数」

 心臓が沈み込むように鳴った。

 昨晩、実際に殺されて、以前よりも“死”というものが身近になった。

 想像じゃない。身をもって経験して、その単語の重みに身震いしてしまう。

「夢の中で、あと何回死ねるか……」

 気づけば小さく呟いていた。
 高月くんが「ああ」とこともなげに頷く。

「ちょっと待てよ。じゃあ、またあの夢を見る羽目になるってことか?」

「そういうことだ」

「何で……。俺もう昨日殺されたじゃん!」

 夏樹くんが蒼白な顔で喚いた。

 あの苦痛を思えば無理もない。どうしたって何度も耐えられるものじゃない。

「じゃあ、つまり……5日経つか5回死ぬまで、俺たちは悪夢から解放されない?」

 朝陽くんの言葉に、高月くんは「恐らくな」とまたしても淡々と首肯(しゅこう)した。

 感情を失ったロボットみたいだ。
 どうしてそうも冷静でいられるのか分からない。

「嘘でしょ……。とんだクソゲーじゃん」

 顔を歪めた柚は頭を抱える。

 わたしも言葉を失ってしまい、目眩(めまい)を覚えた。

「だけど、そのあと(、、、、)に待ち受けてるのはきっと……“救済”なんかじゃない」
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