惨夢

 そこで初めて高月くんの表情が変わった。

 眉を寄せ、いっそう険しい顔つきになる。恐れの潜む気配があった。

 “そのあと”というのは、腕に刻まれた切り傷がすべて消えたあと、ということだろう。

「リミットを迎えたら、それか残機を失ったら、きっともう生き返れない。というか目覚められない」

「そのまま、本当に死ぬ……」

 ぞっとした。
 言い知れない恐怖心が背中を滑り落ちていく。

「いや……いやいやいや! そんなんありえねーって。な?」

 笑みを浮かべて余裕ぶろうとしている夏樹くんだけれど、青ざめた顔は引きつっていて正直だった。

 同意を求めるようにわたしたちを見回したものの、誰も声を上げられなかった。

「ちょ……。何だよ、そのリアクション! たまたま……そう、たまたま5人全員がおんなじ夢を見たって可能性もあるだろ!?」

 もちろん、ないとは言えない────けれど。

「そうだとしたら、やっぱり腕の傷に説明がつかないだろ」

 高月くんの言う通り、腕の傷の存在があらゆる希望的観測を打ち砕いてしまう。

「受け入れるしかないんだよ。あれは……ただの夢なんかじゃない」



     ◇



 あの悪夢が現実とリンクしている可能性。

 それを(しん)に受け止めても、能動(のうどう)的に向き合う気にはどうしてもなれない。

 高月くんの言葉が正しいとは思う。分かっている。

 だけど、怖い。

 このままじゃ、何もできずに死んでしまうってことだ。



 ほとんど(うわ)の空で授業を受け、昼休みを迎えた。

 わたしたちは朝のように集まって机を囲む。

「今夜も強制的にあの夢を見て、閉じ込められるってことだよね。化け物がうろついてる校舎に」

 箸を持つ柚の手は震えていた。

 彼女だけじゃなく、全員の表情が暗く沈んでいる。

「……そうだね」

「でもさ、どうしろっていうの? 外にも出られないし……あの化け物を倒せってこと? あんなばかでかい鉈持った幽霊を!?」

 昨晩のことを思い返してみた。

 自在にワープして、わたしたちを瞬殺した化け物────“倒す”なんてとても現実的ではないように思える。
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