惨夢
最初にクラス名簿を見たときは驚いた。
同姓同名の別人なんじゃないかと思ったが、教室で彼の姿を見たときに確信した。
そこにいたのは正真正銘、わたしの知っている朝陽くんだったから。
正直、今でも彼のことが好きなのかどうかは分からない。
でも少なくとも意識はしている。
彼との思い出があるから、好きだったから、どうしたってわたしにとっては特別な存在だ。
朝陽くんの方は、ちゃんとわたしを認識してくれているのだろうか。
何となく聞けなかった。
そうやって“何となく”が重なって声をかけられないでいるうちに、気づけば1か月くらい経ってしまっていた。
再会してまともに話したのは、今さっきが初めて。
会話と言えるのかどうかすら怪しい、些細なやりとりだったけれど。
それでも、何だか嬉しかった。
◇
夜の21時半を過ぎた頃、制服に着替えたわたしはこっそり家を抜け出した。
親に見つかったら怒られるかもしれない。
それでなくても止められはするだろう。
どきどきしながらどうにかバレずに外へ出ると、ほっと胸を撫で下ろした。少しだけ気が抜ける。
学校までは歩いて15分くらい。
柚たちはもう来ているかな?
校門が見え始めると、門前には既に柚と夏樹くんの姿があった。
柚に手を振られ、わたしは慌てて駆け寄る。
「ごめん、遅くなって」
「ううん! もうひとりもまだだし。てか、よかった。本当に来てくれて」
そんなやりとりを交わしていると、ふと夏樹くんが辺りを見回す。
「それで? もうひとりって誰が来るんだよ」
「もう来るから……って、あ!」
柚が何かに気づいたような声を上げた。
つられるようにその視線の先に目をやると、校舎の方からこちらへ歩いてくる人影があった。
「え、朝陽くん?」
まったくの予想外で、つい素っ頓狂な声がこぼれる。
「あれ、みんな……」
「なんだ、もうひとりって朝陽のこと?」
「え? 何の話?」
朝陽くんは不思議そうな顔できょとんとしていた。
「いやいや、成瀬じゃなくて────」
「おまえら、もの好きだな」